企業が成長を続けるためには、単に優秀な人材を集めるだけでは不十分です。その事実を最前線で体感してきた二人の経営者が、組織の課題に真摯に向き合いました。今回、Xのスペースで対談したのは、スタートアップの成長期を指揮するTuring株式会社 代表 山本一成さんと、株式会社Your Patronum 代表 森数美保です。
山本さんは、企業が小規模なチームから拡大していく過程で感じるリアルな課題を共有し、森数はこれまでの組織課題に向き合った経験に基づき、解決のヒントを示唆。共に語り合うテーマは、「成長を支える組織の在り方」でした。
プロフィール

組織フェーズによって変わる求められる人物像―
この対談のきっかけとなった森数のnoteに書かれていた内容に触れ、山本さんはこう問いかけました。
「組織フェーズによって、求められる役割の定義と求める人物像が変わるのは、どのような経緯からですか?」
この質問に対し、森数はフェーズの変遷と背景を説明。
「創業期は、働きぶりを知っている優秀人材をリファラル採用することが多いです。この時期は、お互いの考え方や仕事の進め方について『暗黙の了解』があり、同じような熱意を持って仕事を進めることができます。しかし、事業が成長して知人以外からの採用を始めると、状況が変わってきます。新しく入社する社員とは共通の理解基盤がないため、それまで暗黙のうちに共有されていた知識やルールを、誰にでもわかる形で明文化する必要に迫られます。
この課題に対して、多くの企業は創業メンバーをリーダーとしたチーム制を導入します。ところが、これは新たな問題を生む可能性があります。各チームが自分たちだけの最適化を追求するあまり、会社全体で共有すべき言語や価値観ではなく、チーム独自の文化が形成されてしまい、部門間の軋轢が生じやすくなるのです。採用に問題があるのではなくて、未来を予測しつつ組織づくりをしないことで起こるフェーズ移行や状況、構成によって起こる問題といえます。」
こうした組織の壁は、資金調達のラウンドや売上などではなく、組織人数によるものであり、組織拡大が急速か段階的かによっても異なります。組織の未来を見越した対策を練ることでハレーションを最小限に抑えることができるとも森数は語っています。
ここで山本さんからさらに質問が。
「森数さんが書いていたnoteに出てきた”野武士人材”とは何者ですか?」
この質問に森数が答えます。
「”野武士人材”とは、困難な状況でも成果を生み出す圧倒的な行動力を持つ人材です。強いコミットメントで、自ら環境を整え数字や結果を出す能力が特徴です。一つの専門分野に特化するよりも、オールラウンダーである場合が多く、破天荒な一面を持つこともあります。また、ルールや正しさを強く求められる環境ではパフォーマンスが低下する傾向があります。」
野武士人材の特性により、創業期・成長期には能力を発揮しますが、仕組化や正しさを求める安定期フェーズに移行すると、会社が求める能力が異なっていくことで活躍に陰りが見えてきます。

この課題への対策をnoteでご紹介していますので、ぜひご一読ください。
成長期に到達するには?―見せかけ成長期のスタートアップ
「スタートアップの創業期から成長期へのフェーズ移行ではどのような問題が発生しますか?」
そう山本さんは問いかけます。
「資金調達や組織人数の増加により、規模的には成長期に移行したように見えるスタートアップが多い一方で、プロダクトやサービスのPMF(プロダクト・マーケット・フィット)が未達成のまま進んでいるケースが少なくありません。特に、創業期に活躍する野武士人材が、力技で成果を上げることで売上が立つ場合、一見順調に成長しているように見えることもあります。しかし、こうした成果は再現性がない場合が多く、売上拡大を目的とした無秩序な増員により、組織内に潜在的な課題が蓄積しやすくなります。」
森数はさらに、規模拡大時によく起こる問題についても触れます。
「スタートアップが真の成長フェーズに到達するためには、事業拡大の本質を正確に理解し、それに基づいた施策を継続的に実行することが不可欠です。社員数が30人程度まで増えると、組織は重要な転換期を迎えます。この規模になると、各チーム間での意見の相違や軋轢が目立ち始め、人員に関連する問題が直接的に事業の成長速度を左右するようになります。そのためこの段階では、より計画的で戦略的な組織運営が求められます。場当たり的な対応ではなく、長期的な視点に立って組織の在り方を考え、実行していく必要があるのです。」
成長期スタートアップにおける組織課題の本質とリーダーシップの在り方
さらに山本さんが疑問を呈するのは、成長期における典型的な組織課題です。
「なぜ、組織課題は生まれるのか。」「極論、強い人材(能力の高い人材)を採用すれば組織の悩みは解決するのではないか?」
いわゆる、「強い人材(能力の高い人)が採用できれば勝ち」というスタートアップの風潮に対する質問に、森数は以下のように答えています。
「事業における課題は、最終的には必ず組織の課題として表れてきます。これは、組織運営において考慮すべき要素や変数が非常に多岐にわたるためです。また、優秀な人材を集めれば自然と組織が成長するという単純な図式は成り立ちません。これは、スポーツチームで例えるなら、単に実力のある選手を集めただけでは必ずしも勝利につながらないのと同じです。むしろ、優秀な人材が増えれば増えるほど、『船頭多くして船山に登る』という状況に陥りやすくなります。つまり、それぞれの役割や責任、権限の境界が不明確になるリスクが高まるのです。」
さらに森数は、合議制を好む経営者の心理にも触れます。
「ある企業の代表は、合議制を取る理由として『検討漏れを防ぎ、良質な意思決定をしたいから』と語っていました。しかし、その背景には『自分一人で決定する恐怖』や『不確実性の高い決定に正解を求める気持ち』が見え隠れします。」
意見を募ること自体は重要ですが、同時に意思決定における責任の所在を明確化することが、正しいスタートアップ経営の姿勢といえます。
誤った価値観「強い人材が採用できれば勝ち」に物申す―
「強い人材(能力の高い人材)を採用しても、短期離職や期待通りの成果を上げられないケースは少なくありません。これはカルチャーフィットの問題でしょうか?」
山本さんは引き続き強い人材に関する問いを投げ、森数は次のように回答しました。
「多くの場合、問題の根本は期待値のコントロールが不十分なことにあります。経営陣が優秀な人材を採用する際、『いつまでに』『どの程度の成果を上げてほしいのか』という具体的な期待値を明確に伝えていないケースが非常に多く見られます。この曖昧さが、採用された人材との間で認識の違いを生み出し、やがて関係性の悪化を招き、最終的には組織全体に波紋を広げることになるのです。」
森数は、これらの問題は入社前とオンボーディング時の丁寧なコミュニケーションと認識の擦り合わせによって防ぐことが可能であると説きます。
「採用後、オンボーディング段階で双方の期待を明確にし、継続的な対話を重ねることが、短期離職や成果未達のリスクを最小限に抑える重要な施策となります。」
ユアパトの記事でも詳細が解説されています。参考にすることで、具体的な対策をさらに深く理解することができるでしょう。
「良い人が採れたら勝ち」って本当?マネージャーの採用が上手くいかない原因と対策
まとめ
スタートアップや成長期の企業が直面する組織課題について、課題の背景や解決のヒントをご紹介してきました。次の記事では、組織の多様性を強みに変えるための具体的なアプローチとして、異なる価値観を持つメンバー同士をつなぎ、共通の目標に向けてチームを効果的に導く方法について詳しく解説します。組織人数が増えることによって、事業成長力を高めたい方は是非ご覧ください。
続きはコチラ↓↓↓
